コロナ禍や物価高の逆境でも好調な低価格海鮮丼のパイオニア
蓋を開けた瞬間の驚きと感動がお客様を惹きつける
2007年にスタートした『海鮮丼専門店 丼の丼丸』。東京の下町で40年以上愛されてきた老舗寿司屋が展開する、お持ち帰り海鮮丼専門店だ。2014年には100店舗を超え、現在は400店舗近くまで成長を遂げている。
その人気の秘密は、脅威のコスパだ。原価をギリギリまで下げ、500円(税別)で提供できるシステムを追求した結果、寿司屋クオリティの海鮮丼がワンコインで味わえるとあって、人気が爆発した。
「うちの最大の強みは“驚きと感動”」だと言うのは、株式会社ササフネの代表取締役社長、亀山政典氏。
「蓋を開けた瞬間にスゴイ!と思わせること。これだけは開店以来ずっと崩さずにやってきました」
近年の物価高による仕入れ値の高騰は、飲食店にとって悩みの種だ。コスパを重視する『丼丸』にとって簡単に値上げをするという手段は、客離れの原因にもなりかねない。
「原材料費が高くなってくると、どうしても利益先行で、ちょっと量を減らそうとか、ネタを一枚減らしちゃうとか、そういう事をするとどんどん丼がチープになってきてしまうから、これをやっては絶対ダメ」と言う亀山社長は、商品のコスパを守るために実践されたアイデアを次のように語る。
「以前『丼丸』では、最初からスライスされた材料を仕入れることが多かったんです。材料を切らずにのせるだけでOKだから。コロナ以降、仕入れ値がどんどん上がってきた時に、切る、という技術を研修で取り入れるようにしたんです。切ることができれば、仕入れ単価を抑えられ、原価も下げられるから、お客さんだけでなく、オーナーさんのためにもなります」
全体の売り上げはコロナ以前より10%程伸びている
コロナや物価高と、飲食店を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化しているのは周知の通り。そんな中でも『丼丸』は苦境に喘ぐことなく、むしろ全体の数字はアップしているという。
「たしかにコロナの影響で、人の数がそもそも減ってしまったオフィス街や学生街のお店は苦戦を強いられました。その反面、テイクアウトの需要が広がったことで、全体としての売り上げはコロナ以前に比べて10%程伸びています」
また、近隣の店舗同士でお客を食い合ってしまうという理由から敬遠してきたデリバリーを、コロナ禍のタイミングでスタートさせたことも、新たな客層の獲得につながった。
なぜ、これほどまでに『丼丸』は逆境に強いのか。
「商売を取り巻く環境は日々変化している」と言う亀山社長は、いつも現場であるお店に立ち続けている。
「お店に立つと、いろんな変化が見えてくるんです。うちは海鮮丼という、いわば日本人にとって伝統食を扱っているわけですが、そんな定番の商品でも、お客さんの反応はもちろん、仕入れ値の変化など、常に環境は変わっています。その変化に柔軟に対応するためには、現場に入るのが一番なんですよ」
そこに答えがあるからこそ、現場での判断を優先する
お店をどう経営していくか。その裁量は各オーナーさんに任せる。そんな『丼丸』のフランチャイズに対する方針も、ひとつには『答えは常に現場にある』という考え方からだ。
「あくまでうちは海鮮丼が主体ですが、お店によっては海鮮丼に加え、オーナー自身の経験を活かして唐揚げをやったり、焼き鳥をやるというオーナーさんもいる。これをやってはダメ、あれをやってはダメという縛りみたいなものは作らないようにしています」。
『丼丸』の各オーナーはそれぞれの現場で創意工夫をしながら、自身で経営判断を行っていく。もちろん自由だからこそのリスクはあるが、経営者としてのやりがいや醍醐味、そして喜びがそこにはある。
オーナーが400人いれば、400の頭脳で次の道を切り開く。そうすれば、その情報を共有することで、お互いに伸びていくこともできるのだ。
「生ものの海鮮を食べるというのは、日本の文化として江戸時代からあるわけじゃないですか。それが割安で食べられる。そこに派手さはないんだけど、確実にやっていれば、3年、5年、10年、20年という長期にわたってビジネスとして成立できる土台があるということなんです。お客さんにそういった価値や喜びを与えたいと考える人であれば、どんどんオーナーになってほしいと思います」
日本人にとって伝統食ともいえる海鮮丼を扱っているからこそ、変化に敏感で、自らが変わっていくことをおそれない。それこそが逆境に強い『丼丸』の哲学だ。
今回インタビューさせていただいたのは、株式会社ササフネ/丼丸 代表取締役社長 亀山政典氏