動かない!? 非常用発電機問題に取り組む

投稿者・コラム執筆者

日本にある非常用発電機の多くが動かないかもしれない

地震などで停電になった際に使用される非常用発電機。これは1000平米以上で、人の出入りがある建物には必ず設置しなければならないと、法律に定められている。

災害時に発生する火災を消火するスプリンクラーや消火栓なども、この発電機がなければ作動すらしない。この発電機に対して法令点検を業務として行っているのが日本負荷試験サービス株式会社だ。

日本全国にはおよそ130万台の非常用発電機が設置されている。しかし、驚くべきことに、この非常用発電機の多くが動かないかもしれないという。(※参照1)

「2006年から法律ができて、年に1回の点検が義務づけられています。ところが実際は、そういった法律があるにも関わらず、点検が実施されているのはほんの一部に過ぎません」

と語るのは同社代表取締役の宇佐美厚さん。

2011年の東日本大震災のとき、事実、非常用発電機の多くが正常作動しなかった。その後調べてみると、震災時に動かなかった発電機の約7割が点検不備によるものだと判明した。要するに、点検さえしていれば、動かすことができたのだ。

非常用発電機が動かなくなる理由は、その構造にある。発電機の多くはディーゼルエンジンを利用して発電を行うのだが、そのエンジン内にカーボンが溜まってしまい、急激な出力に耐え切れず、エンスト状態になってしまうのが、その主な原因だ。

そのため、本来の点検ではその出力がきちんとできるかどうかを確認する必要がある。

しかし、これまでの点検では、車でいうアイドリングをするだけのもので、実際に動くかどうかのチェックが行われていないことが多かった。

また、今までの点検だけではエンジン内にカーボンが堆積されるので、その点検だけでは、むしろ発電機を動かない状況に近づけているだけとも言える。

昨年9月から負荷点検に対する認識が180度変わった

宇佐美さんはこう語る。

「出力できるかどうかの負荷点検はほとんど行われていません。その理由は3つあって。ひとつは地震が自分のところには来ないだろうという根拠のない楽天的観測。

もうひとつは、金銭的な問題。非常用発電機というのは、そもそも付けたくて付けている人は誰もいなくて、仕方なく付けていることがほとんどです。しかも、安いものでも500万円くらいはします。工事費も含めれば1千万円以上はかかってしまう。それ以上お金をかけたくないというのがその理由。

最後のひとつが一番問題なのですが、消防用設備点検報告制度というのがあって、年に1度、建物の管理者は、消防用設備などを定期的に点検した結果を、消防署に報告する義務があります。その報告書には非常用発電機の出力をともなう負荷運転という項目があるにも関わらず、そこにチェックが入っていなくても、これまで消防署は受理していたんです。

また、チェックが入っていなくても消防署の方から何も突っ込まれない。こうなると、点検なんてしませんよ。」

2016年9月、その状況が一変する。

行政監修の元日本内燃力発電設備協会(内発協)による「防災用自家発電設備の経年劣化調査報告」が発表され、それによると、やはり全国にある多くの非常用発電機が実際には動かない状況にあることが事実として判明したのだ。

東京に直下型の地震が来るかもしれない、南海トラフの巨大地震が近い……などと言われている状況下。しかも、2020年には東京オリンピックが開催されることがすでに決定している。国としてもこの状況を看過できなくなってきたのだ。

昨年以来、ようやく負荷点検の義務がきちんと果たされているかを厳しく管理する体制になってきたと、宇佐美さんは言う。

「消防署に出す報告書で、負荷点検が行われていないと、消防署で受理されなくなりましたし、この4月からは違反物件の公表制度も始まりました。

コンプライアンス遵守が重要とされる時代ですから、こうなると企業も無視できません。実際、負荷点検に関する弊社への問い合わせは、すごい数になってきています。」

今後は点検オペレーションを担える技術者の数を増やしたい

同社は負荷点検の費用削減および作業員の負担を軽減するために、軽量コンパクトな負荷試験機を開発した。負荷点検ではそれを非常用発電機につなぎ、正常な数値が出るかどうかを確認する。

ただ、全国にある発電機の数はおよそ130万台。膨大な数だ。点検オペレーションを担える技術者の数は足りていない。(※参照2)

「ようやく負荷点検の重要性が認知されてきた。それはとても良かったと思います。しかし、これからはその点検を担える技術者を育成していくのもまた急務だと考えています。そのために毎月、仙台、宇都宮、名古屋、沖縄の各地で発電機点検を行うための研修を開催しています。」
 
研修は、発電機研修(各メーカーの発電機点検)、負荷試験研修(負荷試験オペレーション)、現地同行研修(ユーザー対応も含む現場研修)の3つのプログラムで構成されている。

一見、ディーゼルエンジンの知識など、資格を得るためにはハードルが高そうに思えるが、意外とそうではないらしい。

「もちろん、電気系統や車のエンジンを仕事で触っていた人はすんなり理解できる内容ですが、これまでまったく違う分野で働いていた人、たとえば美容師さんやパン屋さん、そして主婦の方なども研修には参加されていて、長くても10日くらいで修了されています。防災という観点からみても、とても重要でやりがいのある仕事です。

また、収益性が高いのと、継続的な売上げが見込めるので、少しでも関心のある人は研修に参加してほしいですね。」

と語る宇佐美さん。

取材の最後に

「ここまで来るのが大変だった……」

と感慨深そうに話したのがとても印象的だった。

今回インタビューさせていただいたのは、一般社団法人日本発電機負荷試験協会 専務理事 宇佐美 厚氏

※参照1

※参照2


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